白いポスト / Kanesue(Frickr)
▲不健全図書を入れる白ポストも、全国から消えている。
平成になって何が無くなったって、おっさんにとっては、エロ本文化だ。
かつては、日本を支えていた工事現場のブルーカラーが、実話雑誌やスポーツ新聞とともに支えていたメディア。仕事に発奮した後は、彼らっは下半身も発奮したものだ。また、20歳にみたない子供が、あえてぷるぷると震えながらレジ前に立ち、店員はあえて見ないフリをして、エロ本を精算する。学生が、河原や深い森の中から水濡れでガビガビのを拾う。なんて独特な性の儀式、通過点的な文化が、高度成長期の日本には溢れていた。
昔は、女には(部屋にあると)捨てられ、男仲間ではなぜか友達のしるしに交換となりがちだったが、ある意味必要悪として、大人への通り道として成立をしていたエロ本。
90年代くらいには「エロ」がサブカルチャー的なもてはやされ方をしたことも一時期あったが、平成20年代のいまどきは、コンビニでさえそれらを置かなくなりはじめている。そして、供給過多に至っているAVとともに、市場は崩れているのだ。
なぜそれらを買わないのか。かつては、性は繁栄の象徴であったが、今のネット時代では、それらは望まれなくなっている。そして、AVが見たい場合でも、検索すれば、0秒で無修整サンプルが手に入る時代。エロ本も、画像掲示板にいけばダイジェストで良いものはまるまるスキャンされている時代。よほどの好事家でない限り、AVも本も「買う」必然性すらなくなってしまった。
また、男性の性欲低下、オナニーへの依存度の低下も著しいことも一因だ。まず、最近の世代の人は草食化に象徴されるようにセックスにあまり比重を置いていない。非正規雇用の増加で、女性にも人生にも夢は見れず、セックスへの道程はあまりにもコストのかかるものとして敬遠されてきたこともある。そんな人達の受け皿であったかつての「風俗」はHIVブームと、改正風営法による警視庁の指示で「無店舗店」デリヘル化、街では一切目に入らなくなった。性欲に興味を持つはずの人たちは、性に接触すること自体がない。ゲームと携帯、SNSで貴重な時間のほとんどを消費しているので、興味を持つ必然性すら無い。
そんな中、市場でシェアを減らし、予算が減り、撮影という仕組みすら無理になってきたエロ本は、同じ境遇にあるけれどまだ不振度が低かった、というか原価が低い、AVとくっつきはじめた。資本の論理で、予算がない本は、売れ筋ビデオとのタイアップにより、ロハ、あるいはビデオ会社に使用料を払って、コンビニにAVを流すことをやり始める。ビデオメーカー的には、多数の流通をすることで、宣伝になる。
主体は俺の欲望、といったテーマ的なものは、そこで消えた。エロ本がエロ本であることを放棄し始めた瞬間である。
そして、オリジナリティとか文化というものは、ものすごく希薄になっていく。
その中でも、市場のあるものしか残らないので、当然売れないものは消えていく。
結果、ただ売れ線だけが残って、あとは死んだ。
レミングス(遠い昔に流行った、キャラクターが集団自殺していくPCゲームのこと)。
業界の死。
実質的に40歳以下はもうエロ本なんて買っていないが、壊れてきたのはエロ本文化というよりも、日本の性文化なのかもしれない。
これらのエロ本、あえて今、棚に並べたりすると、すっかり昭和を演出できる(特に、エロ本専門店で買ってきた40代以上が読むようなA5の本なんかそう。スカトロ、SM雑誌が多い)。人としては誤解されるが。
それらを揃えるための、「エロ本専門店」ですら絶滅寸前、都市部にはわずかにAV店舗が残るくらいだが、例えば、地方に行けば、まれにそういう「エロ本中心の駅前店や郊外店」がわずかにあるし、中古であれば神保町の雑誌専門古書店で黄金期のものが手に入る。
近年、それらの業界では、ゾッキ本(特価本=下に赤線が引いてある、新古本)市場のほうがそれなりの数になってきている。それも「エロ本」の崩壊と無縁ではあるまい。
懐かしいマイナーな本などはヤフオク等で取引もされている。ハズレをつかむと精子の跡を発見していやな気持ちになるかもしれないが、ファンタジーワールド、男の最後の世界。
ある意味ではアートとして見れば、結構面白く楽しめるはずだ。
黄金期のエロ本は基本的には「自分勝手」。いまよりもだいぶ消しが多いかわり、表現の許容範囲もゆるい。エロの探求にともなう表現のエスカレートは、フェミニズムや人権的には全く許されるものでもないのだが、「あえて」優しい女子は、男のワガママな性欲をファンタジーと解釈してくれた。その一方では迫害も続いていた。いままでも「消せ」という団体さんがいて、一方で、「ひつようだ」という人がいて、その中で折り合いをつけて残っていたものなのだが。
絶滅の時は近い。
電子書籍時代には復活するんじゃないの?
なんて思うが、もちろんマイナージャンルとしては残るでにしても、電子だとスケールメリットがない。「予算」がとれないので、過去のものしか出ない。また電子の場合、特にアダルトコンテンツを決済する海外クレジットカード会社が、欧米系ということもあり、当然日本独自な表現分野である低年齢や加虐に厳しいので、そうそういままでできていたことができるわけではない。加虐を肯定はしないが、日本のエロにはたたみ、ふすまの似合う湿度というか、適度な淫靡さがあったはずだ。これからは、そのような課金側の事情と国際的な圧力により、洋ピンのようなまずニッコリした、特定のジャンルしか残らないだろう。
この消えそうな世界、あえてまったく興味を持っていない人がその世界に足を踏み入れる第一歩になってくれれば幸いだ。わずか数百円で、気が狂うくらい知らない文化に触れ合えることは、そうそうないはずだ。できれば、コンビニではなく、本屋で。売れてなさそうなのを。そこには、きっと、谷底でもがいているおっさんが、埋まっている。